研究活動


 金属材料に関する研究

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Multi-Scale ScienceとSynergistic Science

材料技術は、よく縦糸 と横糸の視点から議論されることが多い。縦糸の視点から見れば、鉱物のような自然物を人工物にする技術が材料技術といえるのではないであろうか(自然物を そのまま人工的な意図で使用する場合もある)。そして、人工的に作った物が、役にたって初めて材料となる。“使われてはじめて材料 ”の所以である。たとえ ば、自然界では鉄鉱石(酸化鉄)はあっても、鉄は存在しない。鉄鉱石を精錬(還元)することによって、鉄という物質が得られ、それに“様々な 制御”が加え られて、はじめて鉄は材料して使われるのである。自然物から材料を作るには、物理法則に則するとともに、 “様々な制御”が重要なポイントとなる。すなわち、物理法則に則しつつ創意工夫により自在に自然現象を操るところが、材料技術の 真骨頂と言えよう。また、 材料は役に立たねばならないが、役に立つといってもその範囲はきわめて広い。力学特性(強度、延性等)、磁性、電気特性、光学特性、熱特性から生体適合性 等など材料特性を挙げれば限がない。材料が産業、生活、社会の基盤と言われるのはこのためである。このように、材料技術は自然と人間を結びつける技術であ る。

一方、横糸から考えると、原子サイズ(10−10m)の微小領域から巨大構造物(102m) まで、一言で言えばマルチスケールという言葉に代表される技術といえる。例えば、第一原理計算を用いた電子・原子スケール解析→古典的分子動力 学法を用い たミクロスケール解析→連続体力学を用いたマクロスケール解析、といった各スケールの解析手法をつなぎ合わせることにより、材料特性を系統的に 理解するこ とが材料研究の夢の一つといえる。しかし、これだけがマルチスケールではない。材料特性を向上させる場合ナノスケール(10−9m) 制御だけですべてけりつくわけではなく、ミクロンスケール(10−6m)の制御がより重要であったり、ミリスケール(10−3m) の制御が最も効果的であることがよくある。すなわち、材料特性によってdominantとなるスケールが異なる。逆に言えば、それぞれのスケールで材料を “様々に制御”することにより、異なる機能を同時に材料に付与することが可能となる。マルチスケール制御とは、材料の機能集積化 の手法としてみなせる。こ れが、材料のマルチスケール科学(Multi-Scale Science)のもう一つの側面といえる。

当研究室では、 Multi-Scale Scienceを具現化する手法として、実実験と仮想実験の融合を目指している。すなわち、Multi-Scale Scienceとしてメカニズムー組織―特性の関係を究明することが挙げられるが、実実験とシミュレーションによる仮想実験を併用することにより様々なス ケールでの解析を行い、メカニズムー組織―特性の関係を究明しようというものである。材料は新しい産業をもたらすトリガーであることは、これまでの多くの 歴史が証明している。予想もされていなかった新しい現象が突然現れるのである。このような新発見は、仮想実験では得られない(得られたとしても誰も信じな い)。一方、実実験で新しい事実が得られたとしても、その事実が画期的であればあるほどメカニズムの解明は実実験では限界があり、その多くが闇に葬られて しまう。材料サイドが新しい産業をもたらすトリガーのような新発見を常に発信し、それが広く認知されるためには、実実験と仮想実験の融合がきわめて重要で ある。このような実実験と仮想実験の融合を、我々の研究室ではSynergistic Scienceといっている。

本研究室の金属関連の具体的な研究内容は、次のとおりである。

いずれの研究も、Synergistic Scienceの手法を取れいれたMulti-Scale Scienceを目指している。これらの研究にあたって、特に重要視しているのが実際に物を創るということである。 「使われてこそはじめて材料」であるからには、実際に物ができないことには意味がない。横糸を駆使して、強い縦糸をつくりたいと考えている。


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ナノ結晶金属

結晶粒を数〜数十ナノ メートルオーダーの極限まで微細にしたナノ結晶金属は、通常の金属材料では得られない特異な性質を示すことから世界的に注目を集めている。ナノ組織を制御 することにより、力学特性や電気特性、磁気特性など様々な材料特性を飛躍的に向上させることが可能となる。

(1)ナノラメラーCo合金

図1 ナノラメラーCo合金の組織写真 
Scripta Mater. 58(2008) 731-754

本研究室で は、電析法によりナノ結晶金属の創製を行なっている。図1は電析法で作製したナノラメラーCo合金の組織写真である。ラメラー構造が約3nmの間隔で結晶 粒内に導入されていることがわかる。特性評価試験の結果、本材料は優れた機械的性質と強磁性を示した。また、高分解能TEM観察および分子動力学解析によ り、ナノラメラー構造は複雑な中間層により構成されていることが明らかにされた。

(2)ナノ結晶Ni合金

図2 電析法で作製されたNi合金の高分解能TEM写真

図2は電析 法で作製したナノ結晶Ni合金(結晶粒径約6nm)の高分解能TEM写真である。このようなナノ結晶金属は粒界すべりで変形することから、粒界特性が材料 の力学特性に決定的な影響を及ぼすと考えられる。そこで本研究室では粒界空孔に着目し、ナノ結晶金属の変形・破壊に及ぼす粒界空孔の影響について、実実験 および分子動力学法による仮想実験を行なった。図2は分子動力学によるナノ結晶ニッケルの破壊過程を示したものである。実実験の結果、粒界空孔を多く含む 材料は変形抵抗が低下し、粒界破壊しやすくなることがわかった。このような挙動は、分子動力学法から計算された粒界エネルギーから説明できた。

図3 ナノ結晶金属の分子動力学シミュレーション

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マグネシウム合金

マグネシウム(Mg) は実用金属中で最も密度が小さく、比強度や比剛性、リサイクル性などの点で優れており、近年軽量材料として注目を集めている金属材料である。しかし、Mg は大きな異方性のある結晶構造をとるため、不均一変形が進行しやすく、(特に冷間での)塑性加工性に乏しいという大きな欠点がある。今後、自動車への適用 等実用化を促進するために、塑性加工性の向上が強く望まれている。本研究室では、実実験と第一原理計算シミュレーションを融合したsynergistic scienceにより、優れた加工性を示すマグネシウム合金の開発に関する研究を行っている。これまでの成果として、室温でアルミニウム合金圧延材と同等 の成形性を示すマグネシウム合金圧延材の開発に成功している。

(1)原子結合制御による新Mg合金の開発

マグネシウムの加工性 を抜本的に向上させるためには、原子結合状態を制御することが有効である。 Mgに他元素を添加することによってMg原子の結合状態を変化させることができるが、添加元素の添加量が大きくなると固溶強化によって延性の低下がもたら される。そこで、本研究室では、ごく微量でも延性の向上に有効な添加元素を見出し、マグネシウムの室温延性・加工性の向上に成功した。新しく開発した合金 では、ごく微量添加でも非底面すべりが活性化し、局所変形が抑制されることが確認された(図4)。

図4 室温圧縮試験における破断面近傍の微視組織観察 (a) 純Mg, (b) 新合金a 
Acta Mater. 56(2008) 387-394

この新合金 を適切な条件で圧延することにより、市販のアルミニウム合金圧延材に匹敵する室温成形性を得ることに成功した。このような有効元素の究明には第一原理計算 (図5)がきわめて有効である。現在、実実験と第一原理計算によるsynergistic scienceによりアルミ合金を越える高延性の実現を目指している。

図5 第一原理計算によるMgの原子配置図

(2)室温成形性に及ぼす微視組織因子の影響

図6 マグネシウムに見られる変形双晶

マグネシウ ムの変形における特徴の一つに、変形双晶(図6)が挙げられる。マグネシウムは引張応力下と圧縮応力下で異なる力学特性(力学異方性)を示すが、この力学 異方性は双晶に起因する。したがって、集合組織(特に(0002)底面集合組織)の弱化により双晶形成が抑制され力学異方性が低減する。

マグネシウムの力学特 性に強い影響を及ぼすもう一つの微視組織因子として、結晶粒径が挙げられる。一般に、マグネシウムの室温延性を向上させるためには結晶粒の微細化が有効で あることが知られている。しかし、室温での張り試験と張り出し成形試験(図7)の結果、結晶粒微細化は一軸引張応力下において室温延性向上に寄与するもの の、二軸引張応力下では逆効果をもたらすことが明らかになった。それに対して、集合組織の弱化は一軸・二軸ともに、圧延材の室温延性・成形性の向上に大き く寄与することが分かった。

図7 マグネシウム合金圧延材の張出成形性評価

マグネシウム合金板材の実用化を目指すにあたって、一軸引張応力下のみならず二軸引張応力下での変形特性を理解する ことは極めて重要である。本研究によって、マグネシウムの室温張出成形性向上には、結晶粒微細化ではなく集合組織の弱化が有効であることが見出された。

また最近では、固体リサイクルという新しいリサイクル法を開発し、アップグレードリサイクル、すなわちリサイクルに よる高性能なマグネシウム再生材の創製に取り組んでいる。

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マイクロ・ナノポーラス金属

木材や貝殻、さらには自家骨等多くの自然物は多孔質(ポーラス)材料であり、自然物から言えばポーラス構造は基本要 素の一つといっても過言ではないかもしれない。近年、このような多孔質構造を金属に導入した多孔質金属が、新しい高機能材料として注目を集めている。

材料をポーラス化する ことにより、バルク材では得られない特性(超軽量、高衝撃エネルギー吸収性、断熱性、高吸音性、高振動吸収性、選択透過性等など)を得ることができるが、 ポーラス材料に最も期待されるものは表面効果の顕在化である。本研究室では、表面効果による画期的な機能発現を目的に、超微細気孔構造を有するマイクロ・ ナノポーラス金属の創製およびその特性評価を行っている。

(1)マイクロポーラス金属

図8はス ペーサー法によって作製したマイクロポーラスアルミニウムである。このマイクロポーラスアルミニウムの力学特性を調べた結果、ばらつきの大幅な低減や疲労 現象におけるひずみジャンプの消滅など、有用な機械的性質を示すことがわかった。また、厚さ1mmの薄板で吸音率=1(音を完全吸収)が得られるなどユ ニークな吸音特性も示した。

図8 スペーサー法により作製されたマイクロポーラスAl

(2)ナノポーラス金属

脱合金化法 により孔径約5 nmのナノポーラスAuの開発に成功した(図9)。ナノポーラスAuの力学特性をナノインデンテーション試験により調べたところ、セル柱は理想強度に近い 高強度を有していた。また、自己組織化を利用し、図10に示す特異構造の導出に成功した。他の金属種においてもナノポーラス化に成功しており、触媒、磁 性、電導性、水素吸蔵性などで画期的な特性の発現が期待される。

図9 脱合金化法により作製されたナノポーラスAu
図10 自己組織化を利用して作製した特異構造を有するナノポーラスAu 
Nano lett. 6(2006) 882-885

(3)微小材料の高強度化の解明

(2)で示 したナノポーラス金属、およびナノロッド、ナノワイヤでは理想強度に近い高強度が得られる。この高強度の理由は様々に議論されているが、未だ明らかでな い。そこで本研究室では、強度向上の原因が内部欠陥(転位)の消滅にあるという立場に基づき、転位の安定性に関する分子動力学シミュレーションを行なっ た。図11はその結果の一部である。転位導入による原子配置の乱れが、安定化後消失した。このことから、微小材料の高強度は、内部欠陥の減少に起因するこ とが示唆された。

図11 ナノロッドの分子動力学シミュレーション

(4)3D金属マイクロ流路の開発

図12   スペーサー法で作製した
らせん構造銅マイクロ流路の断層画像 
Mater. Lett 62(2008) 1118-1121

ポーラス構造の制御が容易であるスペーサー法を応用して、三次元(3D)金属マイクロ流路の開発に成功し た(図12)。金属の特徴を活かし、熱伝導率、耐熱性、耐食性に優れた高性能3Dマイクロ流路が期待される。

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